コワイ・マッチョ | ケセラセラ通信日記

コワイ・マッチョ

シネ・ヌーヴォで、ドキュメンタリー映画『チェチェンへようこそ −ゲイの粛清−』を観た。観ているあいだじゅう、深いため息がいくつも……。

作品の公式ホームページにはこうある。《ロシア支配下のチェチェン共和国で国家主導の“ゲイ狩り”が横行している。同性愛者たちは国家警察や自身の家族から拷問を受け、殺害され、社会から抹消されている。それでも決死の国外脱出を試みる彼らと、救出に奔走する活動家たちを追った》。昔の話ではない。現在進行中の事態なのだ。

冒頭、ワーニャという女性(21歳)から男性に電話がかかってくる。「自分の性的指向を叔父に知られ、叔父と寝なければ、その秘密を父親にバラすと脅されている」というのだ。虫唾が走る。ワーニャの父親は政府高官で、秘密を知られたら父に殺されるだろう、という。電話を受けた男性は元ジャーナリストのLGBTQ活動家で、急遽、ワーニャの国外脱出計画が動きはじめる。

チェチェンでは、ゲイやトランスジェンダーであることは「悪」とされ、彼・彼女らへの迫害(拘留・拷問・殺害など)は「罪」を問われないのだという。同共和国の首長・カディロフは「チェチェンにゲイは存在しない」と公言している。そしてプーチンは彼を擁護しているのだ。カディロフは、立派なあごひげを蓄えた、見るからにマッチョな男。笑わないプーチンのマッチョぶりもご存じのとおり。「血の浄化」政策を進めている彼らこそが「ナチ」ではないか。いやおうなく、ウクライナを連想させられた。

同性愛者たちに避難用シェルターを準備し、国外脱出を助けるLGBTQ活動家たちの奮闘が尊い。この人たちにこそ、ノーベル平和賞をあげてほしい。

こういう極限状態において、「お前はどちらの側に立つのか」と問われているような気がした。もちろん答えは決まっているが、しかし、過酷な拷問を受けても友人・知人を売らない自信は私にはない。

それにしても、逃げるほうも逃がすほうも、全員顔出しで登場している。「大丈夫なのか?」と思ったが、最新の「フェイスダブル」「ボイスダブル」という技法で、当事者の顔と声は完全に変えられているのだという。そして、ニューヨークのLGBTQ活動家22人が、その「顔」を提供したという。文字どおり「顔を貸した」わけですね。その22人の方々も偉い!

 

2020年/アメリカ・イギリス合作/107分/監督:デイヴィッド・フランス/シネ・ヌーヴォでは3月25日まで