シネ・ヌーヴォで「京マチ子映画祭」 | ケセラセラ通信日記

シネ・ヌーヴォで「京マチ子映画祭」

4月1日(月)、シネ・ヌーヴォでの仕事を終えてから、同館で「京マチ子映画祭」の3本を観る。
市川崑の『鍵』、三隅研次の『女系家族』、そして伊藤大輔の『いとはん物語』。なんとも豪華なラインナップだ。

 

『鍵』は原作が谷崎潤一郎で、彼を彷彿とさせる中村鴈治郎、その妻に京マチ子、娘に叶順子、娘の婚約者で妻とも関係がありそうな医師に仲代達矢。仮面夫婦、冷たい娘、何を考えているのか分からない医師、の4人が繰り広げる愛憎劇。谷崎の『陰翳礼讃』を意識したかのような宮川一夫のキャメラがクールだ。

 

『女系家族』の原作は山崎豊子。大阪・船場の老舗木綿問屋の主人が亡くなり、膨大な遺産を三姉妹(京マチ子、鳳八千代、高田美和)が相続することになる。その額は1人1億円ぐらいなのだが、今だといくらぐらいになるのだろう。映画は1963年の製作。長女の京マチ子が、笑っちゃうぐらいエゴイストで、もう言いたい放題。相続手続きを任せられた大番頭(中村鴈治郎)も一筋縄ではいかぬ男で、さらに主人が外につくっていた女(若尾文子)まで現れる。しかも身重で。いやもう、各人のエゴと欲とがぶつかり合って、えらいことになる。わが身からは遠い話なれど、めちゃめちゃ面白かった! 脚本・依田義賢、撮影・宮川一夫、美術・内藤昭、照明・中岡源権というスタッフも凄い。

 

『いとはん物語』の京マチ子は、一転してブス(これは禁句? チラシには「不器量」「器量は悪い」「醜女」などとある)の役。しかし老舗扇子屋の長女で、気立てはすこぶる良い。密かに番頭(鶴田浩二)に思いを寄せているが、彼には相思相愛の相手(小野道子)がいて……。誰も悪い人はいないのに、愛はときに人を傷つかせる。伊藤大輔の佳作、京マチ子の珍品というところか。