映画『ぼくの好きな先生』 | ケセラセラ通信日記

映画『ぼくの好きな先生』

前田哲(てつ)監督によるドキュメンタリー『ぼくの好きな先生』(2018年)を試写で観てきた。

映画のタイトルを聞き、まず忌野清志郎の同名の歌を思い出したが、それが主題歌に使われている。歌と同様、映画も「絵の先生」が主人公だが、歌のイメージよりは明るく、おしゃべりだ。

もらった資料に載っていた「監督のことば」には、《私は、縁あって2009年より2017年3月まで、山形県にある東北芸術工科大学で、「映画の先生」として学生たちに指導しておりました。そこで、「洋画の先生」である瀬島匠(せじま たくみ)さんと出会い、交流していると、とてつもない「生きる力」を感じられたのが、全ての始まりです。》とある。

映画の中にも「命が動くほうへ」というような言葉があったと思うが、それを言った画家・瀬島匠の人間的魅力にあふれたドキュメンタリーだった。前田監督の初ドキュメンタリー作品でもある。

瀬島さんは現在56歳、前田監督は46歳だ。映画は、前田監督が瀬島さん(撮影時は54歳)に話しかけるかたちで進行するが、その前田監督の声のトーンが、どこか茶化しているような、ふざけているような印象を与える。しかし、親しい関係ではあっても、決してバカにしているわけではなく、本人はいたって真面目なのだと思う。それは、私自身が自分の声を録音で聞いたとき、同じような印象を受け「イヤな話し方だなあ」と思っているからだ。

いささか個人的な感想になってしまった。本題に戻そう。瀬島さんの描く絵が、ダイナミックで良い。海と空がある、ほぼ同じ題材を「RUNNER」というタイトルで30年間も描き続けているのだという。ブリキのキャンバスを自分で作り、そこに油絵を描いていく。空き時間には趣味のラジコン飛行機を飛ばす。仕事も遊びも、実に楽しそうだ。

精力的な人でもあり、小型車やジープを駆って、大学のある山形、アトリエのある埼玉・長野、生まれ故郷の広島県因島へと、食事もろくに取らずに走り回る。疲れた様子は見せず、いつも陽気で話が止まらない。

だが、映画が終盤に差しかかったとき、30年も同じ題材を描き続けてきた「秘密」が明かされる……。

生きるとは、創作することとは、表現とは、などの問いかけが真摯になされた映画だと思う。

『ぼくの好きな先生』(85分)は、シネ・ヌーヴォ(Tel 06-6582-1416)で3月30日から。